最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。
仮に最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとされます。
したがって、最低賃金未満の賃金しか支払わなかった場合には、最低賃金額との差額を支払わなくてはなりません。また、地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められ、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が定められています。
最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類があります。
地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金として、各都道府県に1つずつ、全部で47件の最低賃金が定められています。
なお、地域別最低賃金は、[1] 労働者の生計費、[2] 労働者の賃金、[3] 通常の事業の賃金支払能力を総合的に勘案して定めるものとされており、労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮することとされています。
特定最低賃金は、特定の産業について設定されている最低賃金です。関係労使の申出に基づき最低賃金審議会の調査審議を経て、同審議会が地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について設定されています。全国で242件(平成25年4月12日現在)の最低賃金が定められています。この242件のうち、241件は各都道府県内の特定の産業について決定されており、1件は全国単位で決められています(全国非金属鉱業最低賃金)。
地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます(パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託などの雇用形態や呼称の如何を問わず、すべての労働者に適用されます。)。
特定最低賃金は、特定地域内の特定の産業の基幹的労働者とその使用者に適用されます(18歳未満又は65歳以上の方、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の方、その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方などには適用されません。)。
なお、一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、次の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として個別に最低賃金の減額の特例が認められています。
(1) 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方
(2) 試の使用期間中の方
(3) 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
(4) 軽易な業務に従事する方
(5) 断続的労働に従事する方
なお、最低賃金の減額の特例許可を受けようとする使用者は、最低賃金の減額の特例許可申請書(所定様式)2通を作成し、所轄の労働基準監督署長を経由して都道府県労働局長に提出してください。
派遣労働者には、派遣先の最低賃金が適用されますので、派遣労働者又は派遣元の使用者は、派遣先の事業場に適用される最低賃金を把握しておく必要があります。
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。
具体的には、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。
(1) 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2) 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3) 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4) 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5) 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6) 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
支払われる賃金が最低賃金額以上となっているかどうかを調べるには、最低賃金の対象となる賃金額と適用される最低賃金額を以下の方法で比較します。
時間給≧最低賃金額(時間額)
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、
日給≧最低賃金額(日額)
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。
例えば、基本給が日給制で、各手当(職務手当など)が月給制などの場合は、それぞれ上記(2)、(3)の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。
○○県で働く労働者Aさんは、月給で、基本給が月90,000円、職務手当が月25,000円、通勤手当が月5,000円支給されています。また、この他残業や休日出勤があれば時間外手当、休日手当が支給されます。M月は、時間外手当が35,000円支給され、合計が155,000円となりました。
なお、Aさんの会社は、年間所定労働日数は250日、1日の所定労働時間は7時間30分で、○○県の最低賃金は時間額695円です。
Aさんの賃金が最低賃金額以上となっているかどうかは次のように調べます。
(1) Aさんに支給された賃金から、最低賃金の対象とならない賃金を除きます。除外される賃金は通勤手当、時間外手当であり、職務手当は除外されませんので、
155,000円-(5,000円+35,000円)=115,000円
(2) この金額を時間額に換算し、最低賃金額と比較すると、
(115,000円×12か月)÷(250日×7.5時間)=736円>695円
となり、最低賃金額以上となっています。
△△県で働く労働者Bさんは、基本給が日給制で、1日あたり4,600円、各種手当が月給制で、職務手当が月25,000円、通勤手当が月5,000円支給されています。M月は、20日間働き、合計が122,000円となりました。なお、Bさんの会社は、年間所定労働日数は250日、1日の所定労働時間は8時間で、△△県の最低賃金は時間額730円です。
Bさんの賃金が最低賃金額以上となっているかどうかは次のように調べます。
(1) Bさんに支給された手当から、最低賃金の対象とならない賃金の通勤手当を除きます。
30,000円-5,000円=25,000円
(2) 基本給(日給制)と手当(月給制)のそれぞれを時間額に換算し、合計すると、
基本給の時間換算額 4,600円÷8時間/日=575円/時間
手当の時間換算額 (25,000円×12か月)÷(250日×8時間)=150円/時間
合計の時間換算額 575円+150円=725円<730円
となり、最低賃金額を下回ることになります。
□□県のタクシー会社で働く労働者Cさんは、あるM月の総支給額が143,650円であり、そのうち、歩合給が136,000円、時間外割増賃金が5,100円、深夜割増賃金が2,550円となっていました。なお、Cさんの会社の1年間における1箇月平均所定労働時間は月170時間、M月の時間外労働は30時間、深夜労働が15時間でした。□□県の最低賃金は、時間額713円です。
Cさんの賃金が最低賃金額以上となっているかどうかは次のように調べます。
(1) Cさんに支給された賃金から、最低賃金の対象とならない賃金を除きます。除外される賃金は、時間外割増賃金、深夜割増賃金であり、
143,650円-(5,100円+2,550円)=136,000円
(2) この金額を月間総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算し、最低賃金額と比較すると、
136,000円÷200時間=680円<713円
となり、最低賃金額を下回ることになります。
××県のタクシー会社で働く労働者Dさんは、あるM月の総支給額が149,988円であり、そのうち、固定給が85,000円(ただし、精皆勤手当、通勤手当及び家族手当を除く。)、歩合給が42,000円、固定給に対する時間外割増賃金が18,750円、固定給に対する深夜割増賃金が1,875円、歩合給に対する時間外割増賃金が1,575円、歩合給に対する時間外割増賃金が1,575円、歩合給に対する深夜割増賃金が788円となっていました。なお、Dさんの会社の1年間における1箇月平均所定労働時間は月170時間で、M月の時間外労働は30時間、深夜労働が15時間でした。××県の最低賃金は、時間額695円です。
Dさんの賃金が最低賃金額以上となっているかどうかは次のように調べます。
(1) 固定給(最低賃金の対象とならない賃金を除いた金額)を1箇月平均所定労働時間で除して時間当たりの金額に換算すると、
85,000円÷170時間=500円
(2) 歩合給(最低賃金の対象とならない賃金を除いた金額)を月間総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算すると、
42,000円÷200時間=210円
(3) 固定給の時間換算額と歩合給の時間換算額を合計し、最低賃金額と比較すると、
500円+210円=710円>695円
となり、最低賃金額以上となっています。